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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
13 宙に浮く屍骸
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,907 字 · 32 页
「彦、そいつあ、師匠の部屋から捜し出して来たか。でかしたぞ――これさ師匠、もう駄目だぜ。種あ上った。直に申し上げりゃあ、お上に御慈悲もあろうてえもんだ。」
くるり着物の裾を捲くってしゃがみ込もうとする藤吉から、文字若は、白紙のような顔になって飛び退っていた。
ばた、ばた、ばた!――と二、三歩、歩を返して障子に手がかかる。階下へ、文字若、本性の鉄火性を顕して逃げ伸びようとする。そこを、待ち構えていたように勘次が両腕の中にさらえ込んだ。
「放して! 放せったら放しやがれ!」
「いいてことよ。勘弁ならねえ。じっとしていなせえ。」
巨きな勘次が、しっかりと――多分必要以上にしっかりと――なよなよした文字若のからだを抱き締めて、ただにやにや立っている。とたんに、障子の外に多勢の跫音が来て、に組の常吉の声がした。
「お役人様がお見えになりやした。」
「そら、勘的、」藤吉は笑って、「惜しかろうが旦那衆にお渡し申せ。」
間もなく出張の同心加藤吉之丞の一行に文字若の身柄を引き渡した藤吉は、勘次彦兵衛の二人を連れて、もと来た道を八丁堀合点長屋への帰路にあった。
門松、注連繩を焼く煙りが紫いろに辻々を色彩って、初春らしい風が、かけつらねた絣の暖簾に戯れる。