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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

13 宙に浮く屍骸

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,907 字 · 32 页

青空文庫

親分の釘抜藤吉はじめ、勘弁ならねえの勘弁勘次、この葬式彦兵衛、まことに変物揃いの合点長屋であった。

「大変とは大いに変る。こりゃあ理窟だ。」

唐人唄を中止した彦兵衛、きょうも早朝から紙屑拾いに出かける気か、笊を背に、長い竹箸を手に、ぶらりと出て来て、こう常吉と勘次へ半々に、挨拶でもなく、茶化すでもなく、いつもの無表情な顔でしきりに感心しているところで、やにわに家のなかから藤吉の声がした。

「大鍋のお美野さんがどうかしましたかい。」

渋い太い、咽喉のかすれた巻舌である。釘抜藤吉、起きて聴いていたのだ。

三

宗右衛門橋から比丘尼橋、いわゆる大根河岸に沿った一劃を白魚屋敷といって、ここに一般に大鍋と呼ばれている鍋屋という大きな旅籠がある。

訴訟用で諸国から出府する者のための公事宿と、普通の商人宿を兼ねていて、間口も広く、格式も相当高く、まず界隈での老舗だったが三年前に亭主が故くなって今は女主人お美野、これは、もと柳橋で鳴らした妓で、今年三十一、二の年増ざかり、美人も美人だしそれに、決して人を外らさないなかなかの腕っこき、女ひとりでこれだけの大屋台を背負って立って小揺ぎもさせないどころか、鍋屋は、このお美野の代になってからかえって発展したくらいだという。