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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

06 巷説蒲鉾供養

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,319 字 · 29 页

青空文庫

人の呻き。どうやら足の下かららしい。思わず飛び退いて、三人力を合せて石を持ち上げる。紙のように軽い。機みを喰って背後へ下がる。とたんに、ぱっと一条の光りの柱が白布のように立昇った。地底から、穴から――古井戸から。

六つの手を継ぎ合わして、六つの眼が穴を覗く。二、三秒、暗黒に慣れた瞳が眩んだ。やがてのこと、青白い耀りに照らし出された井戸の底に、水はなくても焔が燃え、人の形のかすかに動いているのが、八丁堀三人の視線を捉えた。呻き声は絶え入りそうにもつれて上る。井戸の壁と起した石とに々乎として燠火がいていた。

無言のうちに事が運ばれた。

逸早く彦兵衛が捜して来た物干竿の先に、御用十手が千段巻に捲きつけられて、足場を固めて立ちはだかった強力勘次、みるみる内に竿の鍵へ手を引っかけて猫の仔みたいに男一人を釣り上げた。

磯屋平兵衛が虫の息で三人の足許に長くなった。顔から着物から四肢から、うっすらと蒼い光りがさしていた。

井戸の底には昨日浚われた赤児お鈴の屍骸が、まるで生きているように横たわっていた。

「鬼火だの――燐だのう。」

誰にともなく藤吉が言った。その声を聞きつけたものか、平兵衛はううと唸った。