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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
10 宇治の茶箱
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,760 字 · 24 页
思わず手を離した藤吉の鼻さきで、あたかも冷笑するかのように、縊死人の身体が小さく揺れた。箱の破片を手にしながら、異常に光る視線を藤吉は、今起き上って来た彦兵衛へ向けた。
「吹けば飛ぶような手前の重さで毀れる箱が、どうしてこの大男の足場になったろう。しかも呼吸が停まるまでにゃ、大分箱の上でじたばたしたはずだが――。」
「自滅じゃねえぜ、親分。」
と言う彦兵衛を、
「やかましいやい。」
ときめつけておいて藤吉は、
「今見たようなわけで、わしにはちっとばかし合点の行かねえところがある。旦那方が来ちゃ面倒だ。頭、梯子を持って来て屍骸を下ろしておくんなせえ。なに、綱は上の方から引っ切ったってかまうもんか。それから、彦、なにを手前はぼやぼやしてやがる。この置場の入口を少し嗅えで見て、その足でお店の奉公人たちを一人残らず洗って来い。」
三
店の者は大番頭の喜兵衛以下飯焚きの老爺まで全部で十四人の大家内だった。が、彦兵衛の調査によると、その内一人として怪しい顔は見当らなかった。薄く地面を覆った雪のためと、それをあわてて踏み躙った諸人の足跡のために、置場の入口からもなんの目星い手掛りも得られなかった。