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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

10 宇治の茶箱

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,760 字 · 24 页

青空文庫

」

こう言いながらそそくさと出て来たのは町火消の頭常吉であった。

「旦那衆はもうお見えになりましたかい。」

番太郎が途草を食っているわけでもあるまいが、どうしたものか、検視の役人はまだ出張して来ないという常吉の答えを背後に聞き流して、湿っぽい大店の土間を、台所の飯焚釜の前から茶箱の並んでいる囲い伝いに、藤吉と彦兵衛の二人は常吉に案内させて通って行った。

不時の出来事のために気も転倒している家中の人々は、寒そうに懐手をした二人を見ても、挨拶どころか眼にも入らないように見受けられた。何か大声に怒鳴りながら店と奥とを往ったり来たりしている白鼠を、あれが大番頭の喜兵衛だなと藤吉は横目に睨んで行った。近い親類の者も駈けつけたらしく、広い家のなかはごった返していた。何か不審の筋でもあるとすれば、調べをつけるのにこの騒動は勿怪の幸いと、かえって藤吉は心のなかで喜んだのだった。

白壁の蔵に近く、木造の一棟が縊死のあった茶の置場であった。さっきの仙太郎が蒼い顔をして入口に立ち番をしていた。近所や出入りの者がまだ内外に立ち騒いでいたが、折柄はいって来た三人を見ると、申し合わせたように皆口を噤んで、かかり合いを恐れるかのように逃げるともなく出て行ってしまった。