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つりしのしんきょう

釣り師の心境

坂口 安吾

「文学界 第三巻第六号」1949(昭和24)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,544 字 · 11 页

青空文庫

「ウム、鮎の香がする」

といって、ともかく、満足しているのは三好達治だけであった。かすかに鮎とおぼしき味覚の手応えがあるが、概ね頭と骨とそれをつゝむ若干の魚肉の無にちかい量を感じるだけであった。

それでも、昼すぎる頃に、三好の門弟が酒匂川で釣った鮎を持ってきた。釣り場の料金を払うだけあって、四五寸はあり、二百匹釣っていた。二百匹ともなればメダカでも大したものだが、早川の方は我々合計して五十匹ぐらいの悲しい収獲であった。タダだから、仕方がない。

昭和十六年の六月一日であったと思う。もう当時は酒が簡単に手にはいらなくて、私が途中にガランドウをわずらわして一升運んでもらった。この一升がきてから後は、論戦の渦まき起り、とうとう三好達治が、バカア、お前なんかに詩が分るかア、と云って、ポロポロ泣きだして怒ってしまった。萩原朔太郎について小林秀雄と大戦乱を起したのである。

終戦の年の五月の頃であったが、私は焼野原をテクテク歩いて、羽田の飛行場の海へ、潮干狩りに行った。四面焼け野原となって後は、配給も殆どなく、カボチャや豆などを食わされ、さすがに悲鳴をあげたという程のこともないが、半分は退屈だったから、潮干狩りとシャレてみたのである。