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てつのきりつ

鉄の規律

平林 初之輔

「新青年 第一二巻第一〇号」1931(昭和6)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,016 字 · 30 页

青空文庫

ことによると本局へも二人や三人党員が入りこんでいるかもしれません。そして党にはいわゆる「鉄の規律」ちゅう奴があって、党員の誰がつかまっても、絶対に他の党員には波及せんような仕組みになってるっていうじゃありませんか。これまでに警視庁の手でつかまったものはただ一人だそうですが、その一人は、大日本正義党員なにがしと白状したきりで、どんなに手をかえ品をかえて自白を迫っても一言も答えないということです。何しろ、こんな完全な結社は世界にもないといいますからね。決してご油断はならぬと思います」

「ははは」と東亜局長は豪快に笑った。

「君は実に物事を信じやすい男だな。君を坊主にしないで、役人のはしくれに取りあげたのは我が輩の失策だったかもしれんぞ。ところで君はアナトール・フランス(一八四四―一九二四)という小説家を知っとるかね。あの男の小説に、『ピュトワ』という短編があるがね。それはピュトワという架空の人間を、みんながとうとう実在の人間にしてしまって恐れているって筋なんだ。この仮定の人物が至るところへ出没するんだよ。富豪の客間へでも場末の長屋の台所へでもね。そして何もかもピュトワのしわざにされてしまうんだ。