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かなづち

鉄鎚

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页

青空文庫

、その毒が心臓にすっかり沁み込んだ時に……つまり耳掻きに十杯以上……グラムに直して云うと三分の一グラムぐらい飲んでも、何ともないようになった時分に、急にその薬を入れるのを止すと、四五日か一週間も経つうちにいつとも知れず、不意に、心臓痲痺とソックリの容態になって死んでしまうので、どんなにエライ博士が来て診察しても、わかりっこないんですってさあ…………ね………ステキでしょう……ね……わかって?……」

私は眼の前にモヤモヤと渦巻きのぼる温泉の白い湯気を見守りながら、夢を見るようないい気持ちになって、ウットリと彼女の囁やきに聞き惚れていた。その湯気の中に入道雲みたように丸々と肥った叔父のまぼろしが、いくつもいくつも、あとからあとから浮き出しては消え、あらわれては隠れして行くのを見た。それを見守りながら私は、伊奈子の話が途切れてしまっても、暫くの間ムッツリと口を噤んでいたが、そのうちにフト気が付いて伊奈子を振りかえった。

「……その薬を、僕にも服ましてくれないか……」

「……………」

彼女は、私がふり返った眼の前でサッと血の色を喪った。今にも失神しそうにゴックリと唾を飲み込んで、額からポタポタと生汗を滴らしながら大きく大きく眼を瞠った。