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ぎんのつえ

銀のつえ

小川 未明

「童話」1924(大正13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,721 字 · 8 页

青空文庫

そのとき、白いエプロンをかけた、脊の低い女が、帳場にあらわれました。その女こそ、彼がいった時分には、まだ若かったこの店のおかみさんであったのです。

「ああ。」と、彼は、ため息をもらしました。

おじいさんは、先になって、その店の前を去り、あちらへ歩いてゆきました。彼は、黙って、その後についてゆきますと、いつしか、さびしいところに出て、橋の上にきたのであります。

おじいさんは、このとき、彼の方を振り向いて、

「おまえは、兄妹、カフェーの人たちに、もう一度あって、話をしたいと思うか。それとも、あの静かな墓の中へ帰りたいと思うか。」とたずねました。

彼は、どういって、返事をしたらいいかわかりませんでした。

「どうか、しばらく考えさしてください。」と、彼は頼みました。

「日暮れ方、私は、また、ここへやってくる。それまでによく考えたがいい。」と、おじいさんはいって、どこへか姿を消してしまいました。

彼は、独り、橋の欄干にもたれて、水の流れを見ながら考えていました。もう秋で、あちらの木立は、色づいて、吹く風に、葉が散っていました。

ふと気がついて、彼は、自身の体を見まわしますと、いつのまに、年を取ったものか、みすぼらしい老人になっていました。