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ぎんのつえ

銀のつえ

小川 未明

「童話」1924(大正13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,721 字 · 8 页

青空文庫

あるところに、いつも遊び歩いている男がありました。兄さんや、妹は、いくたび彼に、仕事をはげむようにいったかしれません。けれど、それには耳を傾けず、街のカフェーへいって、外国の酒を飲んだり、紅茶を喫したりして、終日ぼんやりと暮らすことが多かったのでした。

彼は、そこで蓄音機の音楽をきいたり、また、あるときは劇場へオペラを見にいったり、おもしろく暮らしていたのでありました。

ある日のこと、彼は、テーブルの上に、いくつもコップを並べて、いい気持ちに酔ってしまったのです。そして、コップの中にはいった、緑・青・赤、いろいろの酒の色に、ぼんやり見とれていますと、うとうとと居眠りをしたのでした。

もう、いつのまにか、日は、とっぷりと暮れてしまいました。

「ああ、もう帰らなければならない。」と、彼はいって、そのカフェーから外に出たのでした。彼の足は、ふらふらしていました。そして、まだ、耳には、けさしがたまで聞いていた、いい音楽のしらべがついているようでありました。

夜の空は、ぬぐったガラスのように、うるおいを含んでいました。月がまんまるく空に上がって、あたりの建物や、また森影などが、浮き出たように見られたのであります。