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ぎんさんじゅうまい
銀三十枚
国枝 史郎
「新青年」1926(大正15)年3月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页
刑事声には相違ないが、威嚇的の調子は見られなかった。
「不心得をしてはいけないよ」
むしろ訓すような声であった。
「無教育の人間とも見えないが」
刑事は私の足許を見た。
「君、どこに住んでるね」
「市内西区児玉町」
「何だね、一体、商売は?」
私は返事をしなかった。
「ナニ、厭なら云わなくてもいい。君もう家へ帰りたまえ」
刑事は背中を向けようとした。
「僕に家なんかあるものか」
「何イ!」と刑事は振り返った。
「児玉町に住んでいるって云ったじゃアないか!」
「家はあるよ。……だがないんだ」
刑事はしばらく睨んでいた。
「ははあ貴様酔ってるな。……妻君が家に待ってるだろう。……馬鹿を云わずに早く帰れ」
「妻君」と私は肩を上げた。
「妻君は自動車に乗ってったよ」
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刑事はちょっと考えた。
「ふふん、こいつ狂人だな。……死にたければ勝手に死ぬがいい。だがここは俺の管轄だ。……他へ行ってぶら下るがいい」
「妻君は自動車へ乗ってったよ。たった今だ。紳士とな」
「これは可笑しい」と刑事は云った。
「それじゃアあの女を知ってるのか。俺の狙けてる淫売だが」
「あれが僕の妻君さ」
私は何かに駈り立てられた。