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ぎんさんじゅうまい
銀三十枚
国枝 史郎
「新青年」1926(大正15)年3月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页
そうして尚も私は云った。
「これは平凡な解釈だ。だが平凡でもいいではないか」
私は一種の法悦を感じた。
「容易に私は動揺されまい」
こんなようにさえ思うようになった。
そうしてそれは本当であった。
ある朝私は自分の部屋で、紅茶を淹れて飲んでいた。
私の前に新聞があった。一つの記事が眼を引いた。
「佐伯準一郎放免さる。理由は証拠不充分」
私は動揺されなかった。しかし、
「さぞ彼女は驚いたろうなあ」と、彼女を愍れむ心持は動いた。
で私は呟いた。
「彼女よ。うまく切り抜けてくれ」
決して皮肉でも何でもなかった。私は心から願ったのであった。彼女を憎む感情などは、いつの間にか私からなくなっていた。それとは反対に愍れみの情が、私の心に芽生えていた。
翌日私は散歩した。二月上旬の曇った日で、町には人出が少なかった。公園の方へ歩いて行った。公園にも人はいなかった。花壇にも花は咲いていなかった。ただ冬薔薇が二三輪、寒そうに花弁を顫わせていた。
私はロハ台に腰を下ろした。佐伯氏と逢ったロハ台であった。音楽堂が正面にあり、裸体の柱が灰色に見えた。
と、誰か私の横へ、こっそり腰かける気勢がした。