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ぎんざアルプス

銀座アルプス

寺田 寅彦

「中央公論」1933(昭和8)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,830 字 · 26 页

青空文庫

しかしまたピンヘッドやサンライズを駆逐して国産を宣伝した点では一種のファシストでもあったのである。彼もたしかに時代の新人ではあった。

旧時代のハイカラ岸田吟香の洋品店へ、Sちゃんが象印の歯みがきを買いに行ったら、どう聞き違えたものか、おかしなゴム製の袋を小僧がにやにやしながら持ち出したと言って、ひどくおかしがって話したことを思い出す。Sは口ごもって、ひどくはにかんだように物を言う癖があったのである。幼い岸田劉生氏があるいはそのころ店先をちょこちょこ歩いていたかもしれないという気がする。

新橋詰めの勧工場がそのころもあったらしい。これは言わば細胞組織の百貨店であって、後年のデパートメントストアの予想であり胚芽のようなものであったが、結局はやはり小売り商の集団的蜂窩あるいは珊瑚礁のようなものであったから、今日のような対小売り商の問題は起こらなくても済んだであろう。とにかく、これは、田舎者が国へのみやげ物を物色するには最も便利な設備であった。それから考えると、東京市民の全部がことごとく「田舎者」になった今日、デパートの繁盛するのは当然であろう。ただ少数な江戸っ子の敗残者がわざわざ竹仙の染め物や伊勢由のはき物を求めることにはかない誇りを感ずるだけであろう。