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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

124 唖娘

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,006 字 · 25 页

青空文庫

三

「そんな手軽なわけにも行くまいよ」

「それじゃ、ちょいと行って縛って来ますよ」

「馬鹿だなア」

平次の言葉を背中に聴いて、ガラッ八はアタフタと飛び出しました。

三

それから三日目、痣の熊吉は相変らず諸方を荒らし廻っておりますが、ガラッ八の八五郎も、変なことから、思いも寄らぬものに心を引かれたのです。

それは、あれほど平次に注意されて、痣のある人間には振り向いても見ないつもりのガラッ八が、本郷お弓町のとある屋敷の前で、痣のある人間に注意を囚えられてしまったのでした。

困ったことに、それは十八九の美しい娘でした。湯から上がったばかりらしい、血色の良い顔に右の顎の下、ふくよかな線の、頬から喉へ流れるあたりに、ほんの四文銭ほどの丸い痣――それも薄紫色をしたのが、はっきり見えているではありませんか。

ガラッ八はハッと立止まりました。が、次の瞬間、この痣は「熊吉でない」という証拠みたいなものだということに気が付きました。熊吉は左首筋に、小判ほどの真っ赤な痣があると言われているのに、この娘は、右の顎の下――覆面でも冠れば、ちょうど隠れる喉の上に、薄紫の小さい痣があるのです。