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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
………実に奇妙なことなのだが、私はそう思いながらそれが夢であることも、………夢といっても、一部分が現実で、一部分が夢であることを、………というのは、ほんとうは夫に犯されているのであって、夫が木村さんのように見えているのであるらしいことも、意識のどこかで感じていた。ただそれにしてはおかしいのは、あの内容の充実感だけが、………夫のものとは思われない壓覚だけが、依然として感じられているのであった。………
………もしあのクルボアジエのお蔭であのように酔うことができるのであったら、そしてあのような幻覚を感じることができるのであったら、私は何度でもあのブランデーを飲ましてほしい。私は私にああいう酔いを教えてくれた夫に感謝しなければならない。だがそれにしても、私が幻覚で見たものは、果して実際の木村さんなのであろうか。私は現実には木村さんの容貌衣服を通しての姿態を知っているだけで、まだ一遍もハダカを見たことはないのに、どうしてそれが幻覚になって出て来たのであろうか。あれは私の空想している木村さんであって、現実の木村さんとは違うのであろうか。一度私は、夢や幻覚でなく、実際に木村さんのハダカの姿を見てみたい気がする。