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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
そういえばいつぞや、「お前はお前自身の体がどんなに立派で美しいかということを知らずにいる。一度写真に撮って見せてやりたいね」と云っていたことがあったのを思い出す。そうだ、きっとあの写真は私を撮ったものなのだ。………
………私はときどき昏睡中に、自分が裸体にされることをボンヤリ感じている。今まではそれも自分の妄想ではないかと思っていたけれども、もしあの写真が私のものであるとすれば、やはり事実だったのである。しかし私は、自分が眼覚めている時には許すわけに行かないけれども、知らないうちに写されるのなら許しても差支えないと思う。浅ましい趣味ではあるけれども、夫は私の裸体を見ることが好きなのであるから、せめて夫に忠実な妻の勤めとして、知らないうちにハダカにされることぐらいは忍耐しなければいけないと思う。これが封建時代の貞淑な女房であったら、妻が夫の命に服するのである以上、どんなに忌まわしいイヤらしいことであっても、進んで云いつけに従ったであろうし、従わなければならなかったであろう。まして私の夫は、そういう気狂いじみた遊戯によって刺戟を受けるのでなければ、私を満足させるような行為をなし得ないのであるとすればなおさらである。