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かがみじごく
鏡地獄
江戸川 乱歩
「大衆文芸」1926(大正15)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,074 字 · 27 页
たことでした。そしてお話というのは、その結果、ついに恐ろしい破局を招くことになった或る出来事なのですが、それを申し上げる前に、彼の病勢が、どのようにひどくなっていたかということを、二つ三つ、実例によってお話ししておきたいと思うのです。
彼の家は山の手の或る高台にあって、今いう実験室は、そこの広々とした庭園の片隅の、街々の甍を眼下に見下す位置に建てられたのですが、そこで彼が最初はじめたのは、実験室の屋根を天文台のような形にこしらえて、そこに可なりの天体観測鏡を据えつけ、星の世界に耽溺することでした。その時分には、彼は独学で、一と通り天文学の知識を備えていたわけなのです。が、そのようなありふれた道楽で満足する彼ではありません。その一方では、度の強い望遠鏡を窓際に置いて、それをさまざまの角度にしては、目の下に見える人家の、あけはなった室内を盗み見るという、罪の深い、秘密な楽しみを味わっているのでありました。
それがたとえ板塀の中であったり、他の家の裏側に向かい合っていたりして、当人たちはどこからも見えぬつもりで、まさかそんな遠くの山の上から望遠鏡で覗かれていようとは気づくはずもなく、あらゆる秘密な行ないを、したい三昧にふるまっている、それが彼には、まるで目の前の出来事のように、あからさまに眺められるのです。