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かがみもち
鏡餅
宮本 百合子
「新潮」1934(昭和9)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,163 字 · 15 页
サエが振向くより前から、そこで窓にむいているサエの後姿を見ていた。それを感じ、サエは包をもって、つと窓際を離れた。階段の方へ三足ばかり歩いた。そしたら鼻の中を急につめたいものが流れた。サエは、下げている重い包のためぎごちない動作でコートの中でたたまっている袂からハンカチーフを出し、音高く鼻をかんだ。それは洟ではなかった。涙であった。
サエはこのとき、いつかきき覚えていた「口惜しい涙は耳からなりと出るならば」という義太夫のさわりの文句を、はっきりと思い出した。そして、口惜しい涙は耳からは出ない、鼻から出る。サエは強くそう思った。そう思いながら、門松の笹の葉が注連と一緒に風にざわめいている交通のはげしい大晦日の往来へ出た。
夜に入ってからサエは、佐太郎夫婦の家へ行ってこの年を越す気になった。
暗い梯子を軋ませて二階へあがり、唐紙をあけたら、火鉢をかこんでカリンの机の前に主人の佐太郎のほかにサワ子と進などという、会社の争議でクビをきられた時代からの親しい仲間がやって来ていた。
佐太郎は、火鉢へ炭をついでいるところであったが、入ってゆくサエを見ると、直ぐ、癖で激しく瞬きをしながら、胸を張った坐りようで、