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ながしまのし

長島の死

坂口 安吾

「紀元」1934(昭和9)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,277 字 · 11 页

青空文庫

晩年彼は株に手を出していた。父親の影響で――或いは寧ろ父親にすすめられて、この方面に関係していたらしいが、彼はその方面では立派に玄人の素質があったし、くろうと以上の或る神秘的な能力さえあったらしい。そうして、女から女へと盛んに惚れていたそうである。このことは彼の妹さんから最近きかされて吃驚した話であって、実のところ、私は彼のそういう生活は想像してみたこともなかった。なぜなら、彼は私等の前では女の話は全くしなかったからだし、それらしいどんな素振りも見せなかったからである。彼が私等の前で被っている仮面に就ては最も簡単な解釈で片づけることも出来そうであるが、私は今そう簡単に片づけることができない気持でいる。彼のポーズは一見自明のように見えて、実は殆んど現実のあらゆる解釈を超越した不可解な彼の宿命に結びついているとしか考えられないのである。そうして、これは彼の宿命であるから今更如何とも仕方のない事柄であったろうと思うのだが、もしも彼が私等の前で女に惚れた話が平気で言えたなら、彼はまだこの年齢でここまで追いつめられずに済んだのだろうと思われるのである。尤も、このことは最後に鉄の断言をしてもいいが、彼は本気で女に惚れきれる男ではなかったのだ。