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ながしまのし
長島の死
「紀元」1934(昭和9)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,277 字 · 11 页
ある。
私が、君の「エスキス・スタンダール」はいいものであると割に簡単な気分で言ったところが、突然長島は狂暴な眼を輝やかして嘘だ嘘だと絶叫しはじめた。そこで私が、こういう君の最も本質に属するところの仕事に就て人の言葉を相手に嘘だの本当だのと喚いてみても仕様がないであろう、それよりも莫迦者の寛大さをもって長閑な道化役者の心をもってきく方がいいらしいと言ったところが、彼は急に激しい落胆を表わして、でも俺はそれよりも弱い人間なんだと悄然と呟いた。これは決して気が狂っていないと私は思った。むしろ正気の人間よりも鋭敏である。私の場合で言うと、私は酒に酔ったある瞬間に時々この状態の鋭敏さを持つことがある。狂人の全てがこうではあるまいが、これが狂人なら狂人は恐るべき存在だと私は思った。
狂人のこの驚くべき鋭敏さには彼の父親が気付いていた。なぜなら、長島の父は、いわば長島の一生恐るべきライバルの一人であって、彼の精神史は常に父を一人の敵として育っていたからだろうと思う。長島の父は高名な陰謀政治家であるが、彼と性格が相似ている上に腹と腹で睨み合っては病弱な長島のとうてい太刀打の出来難い線の太さと押しの強さがあるように考えられる。