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あなんとじゅじゅつしのむすめ

阿難と呪術師の娘

岡本 かの子

「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页

青空文庫

その二

異様な光焔と薫蒸とが溌乱する。)

その二

(部屋の中、もの凄き響と共に一度に暗くなり、それが追々剥がれて行くと桃色の光線のなかに、幻の如く阿難の姿が現われる。しきりに巻き付かれたる物を振りほどく様子であって、而もそれを振りほどき得ず、ますます牽き付けられるといった肢体の動作を繰り返す。ただし捲き付いて居るものは何やらはっきり見えない。)

阿難 ――(苦しげなる独白)これは何とした事だ。ここは何処だ。わたしはわたしの体が自由にならぬ。わたしの心は糸の切れた凧のように狂って飛ぶ。わたしの戒の守りは――定力は――どこへ行ったのか。わたしの智慧のひかりは一点もわたしに光って呉れぬ。わたしはもののけに取りつかれたのか……。(もがき疲れて悄然とする。)然しわたしも悪かったのだ。わたしは道場に坐って、いつものように思惟して居た。一禅、二禅、三禅の境地が、中空の月のようにしずしずと心の中に冴え渡って行った。だがそれから先へはどうしても進めない。心に仕切りがあるようにどうしても進めない。わたしは焦慮った。そこに隙が出来たのだ。その時ふと母のことが考えられた。心の隙へ出家にあるまじき肉親の愛を想う慾念がきざしたのだ。