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あなんとじゅじゅつしのむすめ
阿難と呪術師の娘
岡本 かの子
「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页
すなわち眼は一ところに凝りつき、口は笑いともすすり泣きとも分らぬ歪みに曲って居る。娘驚きて飛び退き、呆れて母を見守る。)
老女 ――(独白)母、母、母、………母………(笑いの怪音、小間)そうだ、わたしは母なのだ!
(だんだん朗かに喜ばしげなる調子になる。)
わたしは今日始めて、平生わたしの呪術を嫌う娘から、本当の声で母と呼ばれた。心から娘に縋り付かれた。
(自信に満てる調子にて)わたしの中から呼び覚まされた「母」はあの天地を育み生きものを造り出す力である偉大な「母性」なのだ。この力に刃向えるものはあるか。わたしはもう呪術師ではない。真正正明、一人の娘の母なのだ。
わたしは呪術師として祈らずに、娘を愛する母として、日頃使い馴れた呪術の力を借りるとしよう。そして可愛い娘に恋人阿難を祈り迎えてやろう。(老母は立ち上り部屋の奥に入り、一かかえの白蓮華と一振りの銅刀を持ち出で来り、炉の側に坐る。)おお! 二十八枚の蓮華よ。お前の一枚々々にわたしは母として愛の血を盛る。首尾よく火を潜って若僧阿難を呼び迎えて来てお呉れ。
(老女は銅刀で乳房を裂き、白蓮華の一枚々々に乳房の血を塗り、炉の火中にくべる。