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あなんとじゅじゅつしのむすめ
阿難と呪術師の娘
岡本 かの子
「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页
死んだのでは無い……。この念慮を絶し、思詮を越えたる一実平等の世界の風光は、仏と仏とのみよく究尽し給うところのものである。凡夫の出る息入る息に係わりは無い。
阿難よ。お前は道に賢い方法を取った、お前は凡身の息を止めて仏性の息を呼吸し始めた。お前の本当の眼は開き出した。お前の本当の耳は聞え出した。お前は止息のままで諦かに聴くが宜い。わしは進んで深く語り継ぐであろう。
阿難よ。お前は今、わしが語ったところによって、この世にありとあらゆるもののどれ一つとして実体のあることなきを悟った事と思う。ありとあらゆるものみなが夢幻泡影である。因縁所生の果である。斯くの如くして阿難よ、お前の罪を遡って考えて見て、お前の罪を生んだと思うところの第一の原因であるお前の情にもろい性格さえも、それは実体の無い因と縁との掛け合せなのが判った事と思う。その因と縁のもつれを仮りに宿世と名づけられてある。それもまた砕けば因と縁の掛け合せなのが分った事と思う。更に遡って重々無尽である。浪は浪によって浪を起す。浪の由来も行衛も知れぬ。在るところのものは一実平等の海の水ばかりである。如々としてそれ自ら治めるところの生命ばかりである。