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かいだん

階段

海野 十三

「新青年」博文館、1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,588 字 · 32 页

青空文庫

四月になると、僕は研究助手として、はじめて国立科学研究所の門をくぐった。この国研は(国立科学研究所を国研と略称することも、其の日知ったのである)東京の北郊飛鳥山の地続きにある閑静な研究所で、四階建ての真四角な鉄骨貼りの煉瓦の建物が五つ六つ押しならんでいるところは、まことに偉観であった。僕は第二号館にある物理部へ編入せられ九坪ほどの自室と、先輩の四宮理学士と共通に使う三室から成る実験室とを与えられた。そして研究は、国研の範囲と認める自由な事項を選定してよいと謂うことで、四宮理学士と共に、特に所長芳川博士直属の研究班ということになった。四宮理学士は、背丈はあまり高くはないが、色の白いせいか大理石の墓碑のように、すっきりした青年理学士で、物静かな半面に多分の神経質がひそんでいるのが一と目で看守せられた。僕よりは四歳上の丁度三十歳で、友江田先生よりは矢張り四歳下になっていた。

僕は最初の一日を、今日から自分のものになった椅子の上にのびのび腰を下し、さて何を研究したものかと考え始めたが、一向に纏りはつかず、考えれば考えるほど、今日の帰り路は、どう取って、定刻までに信濃町まで出たものかと、そればかりが気になりだした。