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かいだん
階段
海野 十三
「新青年」博文館、1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,588 字 · 32 页
あとで知ったことだが、佐和山女史は図書係主任を兼任していてこの室に席があるとのこと、その前の小さな机の一つには一脚の椅子が空のまま並んでいた。
「ミチ子嬢は何処かへ行きましたか?」と四宮理学士が訊いた。
「さア、隣りに居ましょう」と女史は指を厚い擦り硝子の入った隣室との間の扉を指した。ミチ子嬢といわれる婦人の机の上には、一輪挿しに真赤なチューリップが大きな花を開いて居り、机の横の壁には縫いぐるみの小さいボビーが画鋲でとめてあった。僕はなんとなくこの机の主のことが気懸りになった。
四宮理学士が扉を開いて、となりの図書室を案内してくれた。僕はその室へ一歩を踏みこむなり、思わず「ほーッ」と声をあげてしまった。その室は三十坪ばかりの長方形の室であるが、四方の壁という壁には金文字の書籍雑誌が幾段にもぎっしりとつまっていた。広い読書机が二つほどすこし右手によって置かれ、左手には沢山の小引出を持ったカード函が重っていた。そしてなによりの偉観は室の中央に聳え立つ幅のせまい螺旋階段であった。それはわずかに人一人を通せるほどの狭さで、鉄板を順々に螺旋形にずらし乍ら、簡単な手すりと、細い支柱で、積み重ねて行ったものだった。