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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
しかし兵六さんはそんな安江の思いなどいっこう気づかぬらしく、夏樹とだけむかいあっている。
「カンナもいるね、カンナ。カンナあるかいカンナ。」
夏樹は笑い出して、
「カンナぐらいありますよ。カツブシ削るやつだろ。」
「うん、そうだそうだ。そいつらをみんなここへもってきてちょうだい。」
「オッケー。ノコギリとカンナとキリだね。」
とび出してゆく夏樹に、兵六さんは、
「クギもいるよ、クギも。」
「オッケーのオッケーだ。」
ふたりの問答を聞きながら、安江は桃と柳をくみ合せて机の上のひな段にかざった。やはり郷里の小豆島を思いだしていた。
机の前はすぐに兵六さんの仕事場になった。音枝が物置から持ってきた四五本の竹を、兵六さんは一本一本吟味しては、ひと節ごとにノコギリをあて、左手で器用にきりはなしてゆく。一ふしで一つの花立ができる勘定だった。花立は上の方を削りおとしてクギ通しの穴をあける。それを出入口や窓の両側にかけ、桃と柳の一枝ずつをいれるのである。それは兵六さんや安江たちの郷里のひなまつりの風習であった。ひな段はもとよりのこと神だなも仏壇も、へっついも井戸ばたも、土蔵の二階のあかりとりの窓までも、節句は桃と柳であった。