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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

おていさいながら第一声の用意はもうできた。すると兵六さんの空想は思いがけなくひらけて、もう目の前に三河屋と顔をつきあわせている。声まできこえる実感で、三河屋はいったのだ。

――あ、ちょうどいいや。そんならうちを手つだってくださいよ。小僧に暇をとられて、若い者がひとりで困っとるところでさあ――

兵六さんはきんきんとして出かけた。まったく空想ばかりでないことに気がついたからだ。三河屋では小僧が暇をとったので、若主人がひとりで配達をし、従って隠居が店番をせねばならず、遊びにもゆけないとこぼしていたのは事実だった。そこで小僧の代りをつとめながら隠居とむだ口をたたかわすのもおもしろかろうし、たまにはきき酒の楽しみもあろうというものだ――

「いらっしゃいまし。」

まだ敷居をまたがぬうちに声をかけられて兵六さんはとびあがった。かんかん照りの外からはいってゆくと、三河屋の奥は見とおしがつかなかったのだが、むかえたのは若いおかみさんである。

「なにをさしあげましょうか。」

あいそのよい笑顔に出あうと、兵六さんはたじたじとなり、

「ああ、みそを、百めほどもらいましょうかな、みそをな。