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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
そんな方いませんよ。どんな方ですの。」
「どんなって、あのう、親せきの者なんですけど……」
何と答えてよいかわからぬ音枝に、女医さんはぐっと癇性にまゆをよせながら、
「年はいくつぐらいですの。――時々偽名をつかう人がいますからね。」
と、あとの方を小声でいう。
「あ、年は十九でございます。――もうはたちになったかもしれませんけど……」
そこまでいうと女医さんは、「ああ。」と心当りのある声を出し、音枝をほっとさせそうになったが、急に威厳をもたせた表情で、
「たしかにいらしったわ、その人。そうそう、宮川っていいましたよ。でもね、ろくに診察もさせないで、とび出しちゃいましたよ。――ほら、あの活発な人だよ。」と、あとの方は看護婦にいって、にやっと笑い、
「あの方、奥さんですか。」
と聞く。音枝は恥でまっかになりながら、
「あの、それではこちらでお世話になったのではございませんのでしょうか。どこへいったか、ご存じないでしょうか。」
「知りませんね。」
急に背をみせた薄情さにおどろきながら、音枝は、小さな受付の窓ごしに、看護婦の目をとらえて、一生けんめいのおろおろ声で、近くの婦人科医を聞いた。