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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
「おじさん、せんたくばさみちょうだい。」
「わたしには七輪の網ください。」
こうした人たちとの接触は、兵六さんの失いかけていた生活への意欲を、ふるい立たせた。ふるい立ったもう一つの原因は、親方がみせてくれた五人の売り子たちの貯金通帳のことだった。石けん一つや割ばし十円の利益が集まって、通帳面には万の単位の金額が合計されていたのだ。それをみた兵六さんの頭には、夏樹と音枝の顔がさっと浮んだのである。
それ以来、貯金のことはねてもさめても兵六さんの頭を去らなかった。
――つめに火をとぼしてでも、あの金だけは払わなくちゃあ、兵六の男がすたる――
おとくいのひとり言を、つぶやかぬ日とてはない毎日だった。兵六さんの商売区域は、親方と談合の上、遠くて千葉、茨城あたりまでとなっていた。とはいえ、どこでやろうとそれは自由である。その日その日の申し合せで、市中をまわったり、いなかへいったりするのだ。仲間の中には遠く九州や東北、北海道あたりまで行商してまわっている者もあるということだったが、そこまではまだ思いきれない兵六さんだ。千葉や茨城でさえも、一度いって木賃宿へ泊らねばならなかったことを思うと、少々のもうけ位では、そう遠くへはゆきたくなかった。