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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

おこらないからさ。」

それでおさまった。外はもう宵やみがせまっていた。安江はふと、いつかもやはりこの時刻だったことを思い出し、あの日以来よりつかぬ兵六さんのことを思いうかべていると、ピストルを一ちょうとり出した夏樹は、それを彼女にさし出しながら、

「も一つあるんだよ。兵六さんが、くれたんだよ。」

「ほんと?」

驚く安江を夏樹は更におどろかした。

「浜ちゃんのね、トランクね、兵六さんがもってったよ。」

「ええっ ほんとかね。」

「ほんとさ。ぼくもううそいわないよ。おかあちゃん、おこらないからさ。」

くさむらはこの前のときの何倍かのかさでおい茂っていた。夏樹は更にもう一つのピストルをもさぐり出し、

「これ、パパン パンて鳴るやつだよ。でも、川へ捨てるんだね。」

以前二度ばかり川へ捨てにいかされたのにならうのかという。捨てたピストルは、氷川さまのお祭に、もらった小づかいで買ったものだった。

「いいよ。きょうはもってらっしゃい。せっかく兵六さんがくれたんだもん。」

夏樹に笑顔を返しながら、安江は自分のささやかな抵抗などではとうていふせぎきれないものに、押しながされそうな気がした。