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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
」
ふっと涙ぐむと、感じやすい音枝も一しょに涙ぐんで、うなずく。
「音枝ちゃん、弟ができてうれしいでしょ。」
笑顔をすると彼女もそれにつられて、
「うれしい。」といい、急いで涙をふいて、
「さっき、あたいが歌うたったら、冬太郎ちゃんいくらでもねむったわ。」
「どうもありがとうね。」
安江は仙造からまとめてあずかってきたミルク代の中から、思いきって音枝に一番上等の赤皮のランドセルを買ってやった。そして貧乏になれて、お金大丈夫? という顔の音枝に、
「これはね、冬太郎ちゃんのおみやげにしましょうね。」
音枝はそれを着物の上に背負って、もう口がふさがらない。しかし安江は、この、たれからも入学のお祝いをもらいそうにない音枝がかわいそうでたまらなかった。ついでに筆入れもえんぴつもぞうり袋も買ってやろうかとはやる心をおさえて、
「洋服はねおとうちゃんに買ってもらいましょうね。靴はおかあちゃんだ。それから、鷲のおじさんもきっとなにかくれるわ。それから元村さんや、川口さんのおばさんもなにかくれるってよ。そうそう、矢田さんもくれるかもしれないわ。よかったわね。」
そういいながら安江は夫の友人の元村や川口たちに事情をいってくれたことにしてもらおうと考えていた。