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ざっとう
雑沓
宮本 百合子
「中央公論」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页
順二郎の部屋を出て来る時、何心なく見たら入口の鴨居の上に紙を貼って、それにMという字の山形をきつく聳え立たせたような字で Meditation と書いてあった。それも宏子の頭にのこった。自分に一つの標語を与え、それで生活をきびしく律して行こうとする気持は、宏子にも理解されるのである。だが Meditation――そんなものは、夏休み前の順二郎の部屋の鴨居には貼られていなかった。
三枚あまり書いた時、外からそっと書斎の扉をあけた者があった。
「誰がいるのかと思ってびっくりした」
思いがけなく、それは瑛子の声であった。宏子は、自分の書きかけていたものを、テーブルの上でそれとなく裏返し、振かえった。
「――寝てらしったんじゃないの?」
瑛子は曖昧に、ああと云い、
「お前こそ、どうしたの? 寒くないかい」
卓子によって来て見て、
「おや、何か書いてたんだね」
と云った。
「うん……何しろノーベル賞金だからね」
まだ心の半分はあっちにある風で、宏子がそう答えた。瑛子は、どうして女に医学博士はあるのに文学博士は出ないだろう。お前も文学をやる位なら、ノーベル賞金をとる位の意気でおやり、とよく云っているのであった。