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ざっきちょうより(に)

雑記帳より(Ⅱ)

寺田 寅彦

「文学」1934(昭和9)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,473 字 · 9 页

青空文庫

気が付いてみると自分は一番上の字の真中を真黒にしている。同じ仲間が近所に二人はある。この二人と自分とだいぶ似たところがあるらしい。自分の場合では、掛けた札がちゃんと後ろの板に密着しないと気持が悪いから掛けたあとでぱちんと札を押しつける、それを押しつけるには釘に近い上の方を押すのが一番機械的に有効だからそうするらしい、勿論無意識にそうするのである。

釘に引っかける札の穴の周囲を疵だらけにしている人と、そうでない人との区別もあるらしい。これと汚れ方との相関もあるらしいがまだよく調べてみない。

ともかくも恐ろしいことである。「悪いことは出来ない」わけである。

四

ある家の告別式に参列して親類の列に伍して棺の片側に居並んでいた。参拝者の来るのが始めのうちは引切りなしに続いてくるが三十分もたつと一時まばらになりやがてちょっと途切れる。またひとしきりどかどかと続いて来るかと思うとまたぱったり途絶えるのである。それが何となく淋しいものである。

しばらく人の途絶えたときに、仏になった老人の未亡人が椅子に腰かけて看護に疲れたからだを休めていた。その背後に立っていたのは、この未亡人の二人の娘で、とうに他家に嫁いで二人ともに数人の子供の母となっているのであるが、その二人が何か小声で話しながら前に腰かけている