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おしゃく
雛妓
岡本 かの子
「日本評論」1939(昭和14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页
頭がぼんやりしていて涙は零さなかった。
わたくしは心配性の逸作に向って、わたくしが父の死を見て心悸を亢進させ、実家の跡取りの弟の医学士から瀉血されたことも、それから通夜の三日間静臥していたことも、逸作には話さなかった。ただ父に就ては、
「七十二になっても、まだ髪は黒々としていましたわ。死にたくなさそうだったようですわ」
それから、父は隠居所へ隠居してから謙譲を守って、足袋や沓下は息子の穿き古しよりしか穿かなかったことや、後のものに迷惑でもかけるといけないと言って、どうしても後妻の籍を入れさせなかったことや、多少、父を逸作に取做すような事柄を話した。免作は腕組をして聴いていたが、
「あの平凡で気の弱い大家の旦那にもそれがあったかなあ。やっぱり旧家の人間というものにはひと節あるなあ」
と、感じて言った。わたくしは、なお自分の感想を述べて、
「気持ちはこれで相当しっかりしているつもりですが、身体がいうことを聞かなくなって……。これはたましいよりも何だか肉体に浸み込んだ親子の縁のように思いますわ」と言った。
すると逸作は腕組を解いて胸を張り拡げ、「つまらんことを言うのは止せよ。