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おしゃく
雛妓
岡本 かの子
「日本評論」1939(昭和14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页
「あんたのお父さんはどうしてるの。お母さんはどうしているの。そしてきょうだいは」
すると雛妓は、胸を前へくたりと折って、袖をまさぐりながら、
「奥さま、それをどうぞ訊かないでね。どうせお雛妓なんかは、なったときから孤児なんですもの――」
わたくしは、この答えが殆ど逸作の若いときのそれと同じものであることに思い当り、うたた悵然とするだけであった。そしてどうしてわたくしには、こう孤独な寂しい人間ばかりが牽かれて来るのかと、おのれの変な魅力が呪わしくさえなった。
「いいですいいです。これからは、何でもあたしが教えたり便りになってあげますから、このうちもあんたの花嫁学校のようなつもりで暇ができたら、いつでもいらっしゃいよ」
すると雛妓は言った。
「あたくしね、正直のところは、死んでもいいから奥さまとご一緒に暮したいと思いますのよ」
わたくしは、今はこの雛妓がまことの娘のように思われて来た。わたくしはそれに対して、わたくしの実家の系譜によるわたくしの名前の由来を語り、それによればお互の名前には女丈夫の筋があることを話して力を籠めて言った。
「心を強くしてね。きっとわたくしたちは望み通りになれますよ」