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あめ

雨

織田 作之助

「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页

青空文庫

ずっと首席を続けて三年生になった。ある日の放課後、クラスの者たち全部からとりまかれ、点取虫の癖に生意気やぞと鉄拳制裁をされた。四十人のものを相手に五分ほど奮闘したが、結局鼻血が出て、闘いは終った。それから十日ほど経ち学期試験が始まった。あぶついて問題用紙に獅噛みついているクラスの者たちの顔を何と浅ましい顔だろうと思った途端、敵愾心がいきなり頭をもたげて、ぐっと胸を突き上げた。ざまを見ろと書きかけた答案を消し意気揚々と白紙のまゝで出した。王者が自ら好んで王位を捨てるような心の余裕が感じられ、ほのぼのとした喜びがあった。彼は初めて自尊心が満足されたと思った。首席にこだわったのも自尊心からではあったが、しかし、考えて見れば、そんな首席にこだわる態度こそ彼の自尊心が許さぬ筈だったのだ。しかし、彼の自尊心がもっと立派な代物であったら、少なくともその時、それを行うのにも観衆者がいるというような心の状態はいさぎよしとしなかったであろう。彼は観客の拍手を必要とする自分の芸人気質に自ら気が付いていなかったのである。観衆者はしかし白紙の答案の為に彼が落第したという事実だけしか見てくれず、彼を嗤った。