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ゆきとどろ

雪と泥

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页

青空文庫

「あのときはたち昏みですもの、お酒に酔うのとは違いますわ」

おしのは浮き浮きと飲んだ。折之助に凭れかかって盃をさしたり、急に手を握ったりした。そうかと思うとふいに黙りこみ、眉をひそめて溜息をついたりした。酒や肴を運んで来るのは、まだ十三四の小女で、座敷へは入らず、廊下から障子を少しあけ、持って来た物を押入れるとすぐに去るのであるが、そのたびに、おしのは神経質なくらいすばやく、折之助から身を放したり坐り直したりした。――こんなことは初めてであった。これまでは側へ寄ったこともなく、こんなにあまえた口をきいたこともない。下町育ちらしいさばけたふうではあるが、立ち居も言葉つきもしっとりとおちついていた。

――なにかわけがあるのだな。

すっかり戸惑いをしながら、折之助はしだいに強くそう思いだした。

「暗くなったね、灯を入れて貰おうか」

「いいえもう少し」おしのは首を振りながら、あまえた鼻声で云った、「酔っているから、あかりがつくと恥ずかしい、――ね、お手を抱かせて」

「今日はどうかしているね、なにかわけがあるらしいが、話してしまわないか」

「――いや、もっとあとで」