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ゆきとどろ
雪と泥
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页
声もあまったるく、子供めいていて、朋輩と話すときの辛辣で遠慮のない言葉も、どこかしらまのびがして毒がなく聞えた。
「あら、お勝ちゃんが帰って来たわ」
ちよのが云った。彼女はなにかの空箱に入っている粉炭を、その箱ごと火鉢の上へ持っていって、箱の隅から火箸で粉炭を掻き出しながら、うしろへ振返ってそう云った。――そうするとすぐに、障子をあけてお勝が入って来た。五尺そこそこの痩せた躯で、色が黒く赭毛である。しかしひき緊った唇もとや、利巧そうによく動く眼もとは、商家の小間使ふうな着付けや髪かたちによく調和してみえた。
「ただいま、――」とお勝は抱えている小さな包を置きながら、おしのの前へ来て坐った。
「今日はうまくいきましたよ、姐さん、どこへも寄らずに今日はまっすぐお帰りになりました」
「それで、どうだったの」
「みんな本当でした」とお勝は云った。「神田の明神さまのちょっと手前で、立派な大きなお屋敷です」
「ちゃんと慥かめたろうね」
「うまく云って御門番に訊きました、小出又左衛門さまのお屋敷で、いま入っていらしったのは御子息の折之助さまだって、お年寄の門番が教えてくれましたわ」