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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

そうそう、松王様はその夕刻、おっつけ戌の刻ほどにひょっくりお見えになり、わたくしがお怨みを申すと、

「なに、ついそこの武者の小路で見張っておったよ」と、事もなげに仰せられました。

その日の焼亡はまことに前代未聞の沙汰で、下は二条より上は御霊の辻まで、西は大舎人より東は室町小路を界におおよそ百町あまり、公家武家の邸をはじめ合せて三万余宇が、小半日の間に灰となり果てたのでございます。そうなりますと町なかで焼け残っている場所とては数えるほどしかございません。お次はそこが火の海と決まっておりますので、桃花坊も中御門のお宿も最早これまでと思い切りその翌る日には前の関白様は随心院へ、また東の御方様は鶴姫様ともども光明峰寺へ、それぞれお移し申し上げました。

越えて八月の半ばには等持、誓願の両寺も炎上、いずれも夜火でございます。その十八日には洛中の盗賊どもこぞって終に南禅寺に火をかけて、かねてより月卿雲客の移し納めて置かれました七珍財宝を悉く掠め取ってしまいます。これも夜火でございましたが、粟田口の花頂青蓮院、北は岡崎の元応寺までも延焼いたし、丈余の火柱が赤々と東山の空を焦がす有様は凄まじくも美麗な眺めでございました。