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ゆきのやどり
雪の宿り
神西 清
「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页
月橋よりお二方ともお落し申上げました。
残りました手の者たちとわたくしは、百余合のお文櫃の納めてあります北の山ぎわの経蔵のほとりに佇んで、成行きをじっと窺っております。当夜は風もなく、更にはまた谷間のことでもあり、火の廻りはもどかしい程に遅く感ぜられます。そのうちに食堂、つづいて講堂も焼け落ちたらしく、火の手が次第に仏殿に迫って参ります頃には、そこらにちらほら雑兵どもの姿も赤黒く照らし出されて参ります。どうやら西方の大内勢らしく、聞き馴れぬ言葉訛りが耳につきます。そのような細かしい事にまで気がつくようになりましたのも、度重なる兵火をくぐって参りました功徳でもございましょうか。やがて仏殿にも廻廊づたいにとうとう燃え移ります。それとともに、大して広からぬ境内のことゆえ、鐘楼も浴室も、南麓の寿光院も、一ときに明るく照らし出されます。こちら側の経蔵もやはり同じことであったのでございましょう、松明を振りかざした四五人の雑兵が一散に馳せ寄って参りました。その出会いがしらに、思いもかけぬ経蔵の裏の闇から、僧形の人の姿が現われて、妙に鷹揚な太刀づかいで先登の者を斬って棄てました。