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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

ああ、どうぞして一日も早く、このような戦乱はやんで貰いたいものでございます。さりながら京の様子を窺いますと、わたくしのまだ居残っておりました九月の初には嵯峨の仁和、天竜の両巨刹も兵火に滅びましたし、船岡山では大合戦があったと申します。十月には伊勢殿の御勘気も解けて、上洛御免のお沙汰がありましたとやら、またそのうち嘸かし色々と怪しげな物ごとが出来いたすことでございましょう。そう申せば早速にも今出川殿(足利義視)は、霜月の夜さむざむと降りしきる雨のなかを、比叡へお上りになされたとの事、いやそれのみか、遂には西の陣へお奔りになったとやら。この師走の初め頃、今出川殿討滅御祈祷の勅命が興福寺に下りました折ふしは、いや賑やかなことでございましたな。さてもこの世の嵐はいつ収まることやら目当てもつきませぬ。お互いにあまりくよくよするのは身の毒でございましょう。はや夜もだいぶん更けました様子。どれお名残りにこれだけ頂戴いたして、あす知らぬわが身の旅の仮の宿、お障子にうつる月かげなど賞しながら、お隣でゆるりと腰をのさせていただきましょう。……