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ゆきをつくるはなし

雪を作る話

中谷 宇吉郎

「東京朝日新聞」1936(昭和11)年9月17日、18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,931 字 · 6 页

青空文庫

こんなことがどうしてもっと早く気がつかなかったのか。水蒸気を適当に、かつ結晶の隅々まで行き渡らすには自然対流を用いるのが一番良いことは考えて見れば何でもないことであった。自然の場合だって天は上に、地は下にと決っている。しかし下の物を上にしたり横のものを縦にしたりすることが、案外むつかしい場合のあるのは何も物理の研究と限ったものでもない。

四年目の冬は、前年の実験ですっかり元気を取戻して、同じような実験を進めて行ったのであるが、どうも今一息というところで自然の雪の結晶のような美しいものにはならない。それも考えて見れば当然なのであって、自然の場合には空気が冷えていて、結晶熱は対流と輻射で取り去られて結晶が生長するのである。それをするには室全体を冷くするのが一番簡単である。天には銅板はないということに気が付くのにまた一年かかった次第である。それで問題は全く最初に返って、天然の雪の結晶の出来る通りに真似をすれば良いという極めて平凡な結論に達したのである。

丁度今年の春から私の今勤めている北大に零下五十度まで下る低温室が出来た。その中で水蒸気の自然対流を適当に按配して結晶を作って見ると、わけなく天然のものに負けないような綺麗な雪の結晶の片割れが出来たのである。