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ゆきま
雪間
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十六号」1957(昭和32)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,817 字 · 24 页
小間使がいいつけられたものを持ってくると、笠原は酒瓶と水差を手もとにひきつけ、自製でよろしくやりながら、あれこれと洋酒の講釈をはじめた。
「じいちゃん、うるさいわよ。どうして今夜はそんなにしゃべるんです?」
「口がひとりでに動くんだ。口を閉めてくれ」
「そんなにおっしゃるんなら、閉めてあげるわ」
安芸子は乱暴にアブサントを注ぎ、いい加減に水を割ると、生に近いのを笠原の口もとにさしつけた。
「これを飲んで、さっさと潰れてしまいなさい。おやすみになる時間よ」
「眠くないが寝てやってもいい」
注がれたアブサントをグイ飲みすると、
「伊沢さん、わたしが邪魔なんだそうだから、その辺へ片付いて、ひと眠りします……家内も今夜は調子がいいらしいから、ご用がなかったら、ゆっくりしていらしてください」
笠原は壁ぎわの長椅子によろけこんでうつらうつらしていたが、間もなく長椅子の肱に頭を落して調子の乱れた鼾をかきだした。
「ほら、もう眠ってしまったわ」
虚脱したようになっている笠原のあわれな寝顔を、安芸子は下眼に見さげておいて、そろりと伊沢のとなりの椅子に移ってきた。
「あたしの影が薄いでしょう。