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ゆきま
雪間
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十六号」1957(昭和32)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,817 字 · 24 页
伊沢が庭から見あげたのは、つまりはこの灯なのだが、そんなことはともかく、この部屋全体がいかにも拵えすぎた感じで、舞台装置の中にでもいるような思いがした。
「伊沢さん、いらっしゃい」
「いよう、しばらく」
笠原が予告したように、安芸子は三角に折った大きなショールで肩と胸を包み、壁に凭せたいくつかのクッションに上半身を埋め、純白の薄毛布の下に両足をのばしてぐったりしていた。一瞥した瞬間、この物臭なようすは、部屋のスタイル同様、どうやら拵えものらしいと伊沢は直感した。
「どうだね」
笠原は人のいい笑いかたをしながら安芸子のそばへ行き、顔のうえにかがみこんで頬に接吻した。安芸子は、
「いらっしゃい」と呟きながら、もう一方の頬をさしだした。西洋人の夫婦が家庭でかわす家常的な接吻だが、それがぴったりと板につき、気障な感じがしないところが妙だった。
「見たところ、元気そうじゃないか」
「それはそうだろうじゃありませんの。まだ死にかけているわけじゃないんだから」
手きびしくやりつけておいて、憔れの見える美しい小さな顔を伊沢のほうへむけると、
「伊沢さん、見てちょうだい、あたしの恰好を……」