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ゆきま
雪間
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十六号」1957(昭和32)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,817 字 · 24 页
鼻にかかった声で、うたうようにいった。
「どうしたって、しあわせそうには見えないでしょう。これがあたしの生活なの」
笠原は卓を挾んだソファに伊沢を掛けさせると、ツルリと禿げあがった額を撫であげながら、
「もう、ごぞんじのことだろうと思うが、わたしの家庭というのはおかしなものなんです。私は私の、家内は家内の財産を持って、自分のしたいように暮している。わたしの家庭、家内の家庭……それぞれのスタイルで一軒の家の中におさまっている。食べるものもちがえば、食事の時間もちがう。悪い意味の自由主義が、家庭という枠の中で、これほど見事に成果をあげている例はちょっと少なかろうと思うんですよ」
「伊沢さん、笠原のいうことなんか、本気になって聞くことはないのよ。こんな出鱈目ばかりいうひともないもんだわ」
安芸子がおひゃらかすようにいった。笠原はのどかな顔で、
「ご機嫌が悪いようだな。伊沢さんがいらしたんだから、強羅のロッジへ電話をかけて、滋野を呼んだらどうだい。お前がそうしたいなら、おれのほうはかまわない」
「滋野は、今日の午後いっぱい、ゴルフのお相手をしたばかりなんでしょう。