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ゆき

雪

楠田 匡介

「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页

青空文庫

「今度早川さんが蔵書を、手放しするということでしたが、高沢寺の社印のあるものまで散いつするのはおしいですね」

「ええ、父のものもですが、爺さん時代、いやまだその前のものもあったので。父の残して行きました目録を見ますと……」

「ほう、そんなお古い……その御記録を今でも御保存なすっていられますか?」

「ええございます。時々見ては夢をおっているわけでして……」と彼は淋しく笑いながら立ってその目録を持ってきた。和綴の十二三枚の紙のもので表紙には、僧に似ない行成流の、しなやかな筆で「寺宝及承伝書籍目録」高沢寺と書かれてあった。警部は手に取って、頁をくったが殆ど漢籍と仏典で二、三物語りらしい物の名や、写本の類も記されてあった。その中に一行その行の上から、紙のはった跡があり墨で消してはあったが注意して見ると「大和・極楽寺縁起」と読めた。

「いやたいした物です。時価にしたら大変でしょう」

「ええ中には、日本に二、三冊しかない宋版の仏典の残欠本なんかありますので何んとかしてそれだけでもお返し頂くようお話ししていたんですが、何しろこんな貧乏寺でございまして」とさすがに声を落した。