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ゆき
雪
楠田 匡介
「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页
「久三さん、だったらなぜ、東京からわざわざ呼んだのさ。わしだってあの極楽縁起があればこそやって来たんですよ……こんな樺太くんだりまで……」
「え! 何だって新造さん。樺太くんだりだって。ふん、それで悪かったら、帰るさ。船はあすあたり出るだろう」
言葉だけではなしに不愉快そうに久三は、盃をからりと置くと立ち上った。
「えッ! 何だって? おい?」
五十嵐も酒が入っていた。商人らしい頭のひくい男だったが、こう言って腰を浮かした。「まあまあ、五十嵐さん――」とお上人の山村常顕が食卓の向うからとめた。
久三の出て行ったあと一寸座は白けたが、又いつとはなしに酒の席らしい陽気さに返えって行った。
その内、ふと伊東が立って、茶の間で久三に何か頼んでいたようだったが、久三はうるさそうに立って、書庫に入ったので伊東もそれを追って一緒に書庫に入った。半開きのドアからこれは又、とてつもない大きな声で久三の伊東を罵る声がしたが、やがてバタンとドアのしきる大きな音がして、足音を荒立てて伊東が興奮した顔で座敷に帰ってきた。
「ひどい爺だ!」
伊東は吐き出すようにいった。
「うははは……」