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くものこみち

雲の小径

久生 十蘭

「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页

青空文庫

霊同士でひっぱたきあいなんかはじめたら、仲裁するのに骨が折れるから」

「それは、あなたのご自由よ。香世子の霊で思いだしたんだけど、香世子の霊を呼びだして、いったい、どんな話をするんです?」

「細かく言わなくっちゃ、いけないのか。隠しておきたいようなこともあるんだが」

「お二人のことだから、しなだれかかったり、しなだれたり、いろいろに手をつくすんでしょうけど、インチキ霊にひっかかって、いいくらいに欺されているんだったら、悲しいわね。そんなことはないの?」

「香世子の霊は香世子の霊。ほかの霊が出てくるわけはないから」

「眼の病気に、だんだん視野が狭くなるのがあるんですってね。ところで、当人は知らない。いま自分が見ているのが、完全な像だと思っている。そういう病気が現実にあるんです。ごぞんじだった?」

「知らないね。これでも眼は丈夫なほうだ」

柚子は、ぷすっとふくれていたが、そのうちに気をかえて、

「どうしてもあたしに言わせようというのなら、いってあげましょうか……クリスマス・イヴに、香世子はあなたを車に乗せて、どこかへぶっつけて、いっしょに死ぬつもりだったのよ。あの日の午後、メルセデスを持ってお宅へ行ったでしょう。