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くものこみち
雲の小径
久生 十蘭
「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页
無理にもあなたをひン乗せるつもりだったんだけど、気が変って、桜間のほうへお鉢がまわったというわけ……香世子の霊、こんな話をした?」
あの日の午後、香世子がやってきたのは事実だが、そんな計画があるとは知らなかった。香世子の霊も、それらしいことはなにも言っていない。
「それは初耳だ」
「もし言わなければ、それはインチキ霊なの。どこかの霊に、遊ばれていたのよ……善人だの善意だのってものは、どうしてこう悲しげに見えるのかしら。あなたもその一人よ。しっかりしていただきたいわね」
黙りこんでしまった白川を、柚子は痛快そうに尻眼にかけながら、
「しおれたようなようすをするところをみると、まだ知らないことがありそうね。ついでだから、もうすこし言ってあげましょうか……香世子の味方をするわけじゃないけど、香世子はあなたが殺したようなものなの。あなたを怨んでいるにちがいないわ」
「どういう筋を辿れば、そういうことになるんだ。この際、冗談と言いがかりは、つつしんでほしいね」
「冗談なんかで言えることでしょうか、これが……香世子が二宮と結婚した日、あなたは誓いをたてて、六年も独身をつづけたすえ、あの年の十月に、なんとかいう方と婚約したわね」