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れいかん
霊感
豊島 与志雄
「中央公論」1952(昭和27)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,268 字 · 31 页
それを、江口さんは知っていました。二人とも四十五歳ばかりの年配で、未亡人同士なものですから、普通の主婦たちよりは、立ち入った交際が出来たのでしょう。
江口さんはA女の顔色を窺いながら、言いました。
「なんだか気になるから、ちょっと、みて下さいませんか。」
「みるって、なにをですの。」
「まあ、とぼけなくっても、いいじゃありませんか。」
「べつに、とぼけるわけではありませんけれど……。でも、たいへんなことになると、わたくしが困りますからねえ。」
「大丈夫、御迷惑はおかけしませんから……。」
A女はじっと宙に眼を据えました。もともと痩せてる頬ですが、その蒼白い皮膚が引き緊りました。
「だいたい分りますが……。とにかく、助経して下さい。」
江口さんも一通りは読経が出来るのでした。
A女は数珠を手にして、祭壇の前にぴたりと端坐しました。地袋の上の棚に、壁の丸窓を背にして、一方に仏壇があり、一方には白木の小さな廚子に北辰妙見と木花開耶姫とが祭ってあります。
静かに読経が始まりました。
無上甚深微妙法 百千萬劫難遭遇
我今見聞得受持 願解如来第一義
それから声が高くなって、「開経偈」